羊毛の外側は水を弾きますが、中は水分を吸収しやすい構造をしています。
一本いっぽんの羊毛は親水性の皮質細胞でできています。その表面は魚のうろこに似た表皮に覆われています。
このウロコ状の表皮はケラチン(角質)と呼ばれる、疎水性のタンパク質で構成されています。
(このケラチンは人間の皮膚の角質層、爪、毛髪に含まれる物
質です。弱い
還元剤が作用するとその分子は滑りやすくなるので、その段階で形を整えて酸化剤を働かせると、形がセットされます。余談ですが、人の頭髪にかけるパーマは
それを応用したものです。また、工場で羊毛を防縮加工する時は塩素系化学薬剤でケラチンを分解して取り除いたり、合成樹脂でケラチンの上をコートして動か
ないようにしています。)
羊毛の表面にあるウロコ同士を引っ掛けあうと、繊維がよく絡みます。繊維は縮れて絡み合うと、出来上がる生地は最初の面積よりも縮みま
す。縮絨
と呼ばれる現象です。
それを熱や水分、圧力や摩擦でわざと縮絨を行い、形をつくった製品がハンドメイドフェルトです。
フェルトを作る時には、お湯と石けんを使います。これは温かいお湯にひたすことで引き締まったスケールを弛めてやる、という作業を行っている
ことになります。石けんのぬるぬるで繊維を滑らせ、絡み合わせます。石けんの成分を洗い流して温度を下げるとスケールが縮み、繊維も縮んでしっかりと形が
セットされます。
フェルトを作るのには冷たい水でも大丈夫、と言われることもありますが、わ
たしは40度から50度で繊維を弛めてやっています。それ以下の温度だと、繊維の細い種類の羊毛ではそこそこ縮絨出来ますが、バネが強い種類、つまり繊維
が太く硬い種類だとフェルト化に時間がかかり、苦労します。沸点に近い温度だとケラチンが煮えてしまいます。
(よくよく考えると、羊の体温は38.3-39.9度です。
実際に羊の首の辺りを触る
と「ん?熱っぽいかな?」という体温をしています。人間に比べ汗腺が
少ないので、羊は汗はほとんどかかないのですが、雨の中でも平気で草を食べています。ですから、冷
たい水−雨が降る度に、生えている自分自身の毛がフェルト化してしまうと、羊にとって非常に都合が
悪いことになりますよね。)